
Washoku column –日本酒編
2020年東京オリンピックの開催が決定し、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、これからますます日本の食文化に世界的な関心が高まることが期待されます。その一翼を担うことが期待される日本酒は、残念ながら現在、国内消費量は右肩下がり、若者の日本酒離れ、酒蔵の数の減少など厳しい環境続き・・・。でも本当に日本酒の未来は暗いのでしょうか?「そんなことないっちゃ、輝かせてみせよう!!」一人の若者として、仙台の一蔵元の娘として、日本酒の未来について世界で最も熱い女子大生、伊澤優花が日本酒への思い、魅力と可能性を発信していきます。
【第4回】 日本酒の“物語”を、飲み手それぞれが受け継ぎ紡げるように
明けましておめでとうございます。
伊澤優花です。
正月といえば日本酒ですね…!親戚が集う一年に一度の特別な日、大事な節目にいつもよりちょっと良い日本酒を選ばれる方も多いかと思います。また日本には元旦の朝に一族揃って「お屠蘇(おとそ)」を飲む風習がありますね。生薬をお酒に漬けこんだ薬草酒の一種で、年の初めに心身共に改まり、一年皆健康に過ごせますようにとの願いを込めて飲むものです。
お屠蘇には「蘇=(病気をもたらす鬼)を屠(ほふ)る」という鬼退治という意味、または「邪気を屠り、魂を蘇らせる」という意味などいくつか解釈があるとか…
このように正月には日本酒が何かと話題になるものですが、最近はお正月に限らず年中日本酒が話題になっているようです。

一昔前、日常生活の中でもちょっと国際交流が進んだ程度の段階でしたら、西洋や白人文化への憧れが圧倒的に強く、日本的なものは古いもの、ダサいもののように捉えられがちでした。しかしこの御時世、いつになくグローバル化が叫ばれていて、(日本はまだまだとは言われますが)各国との交流が一層盛んになり異国の文化が入ってくればくるほど、自国文化への意識の回帰、日本のよさを再発見する機会が増えています。クールジャパンもこの流れですよね。
また、海外に出る日本人が増えたこともあると思います。「早くダサい田舎を出て憧れのキラキラシティー東京に行きたい」と思っていたのに、上京してはじめて故郷の良さを知るように、外に出て初めて日本の良さが見える。日本文化を「かっこいい」と捉えている若者が増えていることは、若者である私が肌身で感じているところです。
またもう一つは、海外からの逆輸入です。海外で日本のアニメ、和食、ファッション、音楽から禅や武士道まで、日本の文化が“Cool !”なものとして受け入れられており、海外で話題になっていることで、若者を初めとする日本人が注目したからです。まだまだ憧れの強い海外、そこでクールだと話題になっているものがなんと自国の文化です、嬉しいし、誇りに思いますよね。そうやって自国の文化の良さを再認識します。私がはじめ日本酒に対してそうだったように、身近にありすぎて見えないものってありますからね。灯台下暗し。

私が思うに、それは日本酒がただの嗜好品ではなく、私たちの心をときめかせてくれる何か、人生に彩りを添えてくれる素敵な“物語”を持ち合わせているからだと思います。それも最近あったちょっと良い話程度の物語ではなく、果てしなく長い日本の歴史の中で育まれた、私たちの財産である「文化」を背景に、日本の豊な国土、農家の方々、高度な醸造技術を操り魂を込めて醸す造り手…様々な人々の思いが紡ぐ“物語”だからです。
その物語こそが、日本酒に奥床しさ、嗜好品以上の付加価値をつけています。そうやって醸された日本酒はまさに芸術品。だから日本酒はその物語を一緒に伝えられてこそ、本当にその真髄に触れることができます。
高い日本酒を見て、お酒にこんなお金払うなんてという人がいますが、それはきっと日本酒をただの嗜好品、飲みきっちゃったらただ空っぽになるだけの嗜好品としか見ていないからではないでしょうか。そのお酒のもつ物語を知ったら、それ相応の対価だと感じるかもしれません。
しかし「本物」といわれる日本酒が提供するものは美味しい飲み物を超えた芸術体験それ自体です。モノが豊富な消費飽和時代、人は物的満足以上の目に見えない豊かさ、精神的豊かさを求めています。そして日本酒はそれを提供することができる。
もちろん大衆酒もありますが、すべての日本酒、思い思い色取り取りの物語をもつ芸術品たる日本酒までもが、一様に価格競争に巻き込まれ、その奥床しさをなきものとし、真価が埋もれるようなことがあってはならないと思います。

私は第一回のコラムで「海外の方にとっての日本酒はエスニックなものであり、日本人にとっての日本酒、自国の文化、誇り、そしてしっくり来るという感覚とは別物」という旨のことを書きました。
しかしそれは悪いことでもなんでもなく、当然の事実。ただ、その「エスニック」という感覚が現地に浸透できない障壁となる場合と、持ち味、個性として人気者になる場合との両面持ち合わせていると思います。
昨今、国際化やグローバルなナントカが世論を賑わしていますが、国際的な人材とは英語をネイティブ並の発音ではなし、髪を染めカラコンをつけて容姿まで外国人になりきることではなく、日本訛りの英語だろうと、堂々と対等にコミュニケーションが出き、その国の言葉で自国について語れる人だと思います。
異国の地で日本語しか話せず、現地にも馴染もうとせず、ゆえに日本というアイデンティティのせいで差別されるのはよくないことですが、日本というアイデンティティをハンデとしてではなく個性という強みとして、現地の言葉でその国の人と同じ舞台で渡り合えることは望ましいこと。日本酒を人にたとえるのは私のクセですが(笑)、日本酒とて同じかなと思っています。

今、NYではかなり日本酒が浸透してきています。憧憬の異郷の物語から、ニューヨークに始まるニューヨーク日本酒物語が新しく紡がれているところです。今後それがどのように展開していくのか、とても楽しみです。
そして、伝えられた“物語”には続きが生まれます。しかし伝えられた物語のその先をどのように描いていくかは飲み手次第。ロマンチックな雰囲気の中で恋人と飲み交わし、言葉ではなく体感で感動を分かち合う、気の合う仲間で集いにぎやかに飲むことで倍増しする楽しさ… こうやって飲み手が“物語”を受け継いでそれぞれの物語を紡いでいく。飲み手に物語への参加を促し、ただの製品以上のかけがえの無い体験を提供する。日本酒の“物語”とはこうであってほしいなあと願っています。

古来より続く邪気払いの為に飲むお屠蘇を飲むと言う慣習も大切にしたいと思いますが、寒さの厳しくなるこの時期に、是非飲んで頂きたい日本酒の飲み方はやはり燗酒です。クイッと冷酒を飲むのも粋ですが、一年で一番美味しく燗酒が飲めるこの時期に飲まないのはもったいないかも知れません。
日本酒は世界に数あるお酒の中でも様々な温度帯で味わう事のできる希少なお酒ですし、誰もが思い当たると思いますが、お正月の暴飲暴食で疲れ切った胃腸には、温かくした飲物の方が胃腸にも優しいですし、飲み過ぎのセーブにもなります。
何故、温かいお酒は飲み過ぎのセーブに繋がるかと言うと、アルコールは体温と同じ温度まで体内で上げないと胃腸が吸収ないからなのです。ですので、冷たいお酒を飲んでいて『酔ったかな?』と思った時には、時すでに遅し。胃腸に残っているまだ吸収されていないアルコールがその後に吸収されてくるため、冷たくて度数の高い日本酒等のお酒には限度を超えて飲み過ぎてしまう可能性が高くなるんです。
日本酒ブームとも言われる今日この頃ですが、冷酒で日本酒に目覚めた方が多い事と思いますが、この機会に温かい燗酒にトライしてみてはいかがでしょうか?温度が上がる事で、お米の甘味も感じやすくなりますしこれまでとは違った日本酒の一面を見る事ができます。
先ずは、お湯の入った器に徳利を入れて温める酒燗器ですが、これに温度計を入れ温度変化を確かめながら飲むのがおすすめです。 このお酒には何度。と決めて飲むのも一つの飲み方だと思いますが、ご自分の好みの温度帯を探しながら飲める。と言う点でこの酒燗器で温めながら飲むのを当店ではお勧めしています。
飲食店考案の、実際の現場に即した、日本酒ファンの方々に日本酒の新しい発見をして頂き、また、その後も日本酒を継続して好きでいてくれる事を念頭に置いたチャートです。
「日本酒を分かりやすく」「好きと思いこんでいる味以外の味にトライしやすく」
「このチャートが拡がれば、そのお店だけでなく他所のお店でも楽しみやすくなるかも」

同時多発的に、全国の日本酒のお店でこのチャートが出回ったら、純粋に楽しい!言う気持ちと、日本がブームで終わらない為の ほんの少しのきっかけになったらと思って、僭越ながらご紹介させて頂きました。
お酒に詳しい方は別としてビギナーの方等は、実はご自分がどの様な味わいが好きかは分からないと、僕は思っています。でも、嫌いな味は結構明確にあるなと、感じたのです。
なので、苦手な味から遠い二辺の味で色々と冒険をしてみれば、好きと思っていた味のポイントから離れた所の味わいのお酒で、新しいご自分の好みの味と出会えると、この度うちのお店でも導入して見たところ、同じお酒を飲み続けてた方も色々とその周辺のお酒にチャレンジするようになって、有名酒だけに注文が集中する事も減り、発注的にも平均的に出す事にも助かっています。
『日本酒をブームで終わらせないために』『日本酒の垣根を低く』と僭越ながら思い続けている次第です。
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○ 橋野 元樹 氏 プロフィール
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SSI認定利き酒師。1975年生まれ。渋谷区笹塚「兎屋」の二代目。目の前で日本酒に炭酸を注入する酒パークや三角形の日本酒チャート発案者。 他にもお酒の蓋を活用したマグネットやチェイサーに白湯をお勧めする‘チェイ白湯‘等の活動も業界に提案中。
「兎屋」(東京都渋谷区笹塚1-10-6)
1993年生宮城県出身、東京大学経済学部在学中。学生日本酒協会代表。
美味しい日本酒だけを醸す仙台の蔵元の娘として生まれ、日本酒が誇れる日本の文化であるということは、幸せな事にも当たり前だと思って育つ。しかし大学に入り、自分が恋をした日本酒の悲しい現状を目の当たりにしたショックから日本酒について学び初め、同志と共に学生日本酒協会を設立。日本酒の未来について世界で最も熱い女子大生。(「彩才兼備」インタビューはこちら)