
Washoku column -生産者編
優しいお出汁の効いた、お味噌汁。ほっこり甘い、根菜の煮物。日本食の主役真っ白なお米に、最高のお供になる魚料理・肉料理・・・長く私 たち日本人の暮らしを彩ってきた「和食」を支えているのは、普段消費者の側からは見過ごしがちな生産者さんの存在です。“食いしん坊女子大生”諸岡若葉が 畑や田んぼ、牧場など生産者さんの暮らしとはたらきに、どっぷりつかって赤裸裸コラム!食の原点にせまります!!
【第7回】 「“夢のたまご”がうまれるいえ〜千葉県山武市蓮沼 虹のいえ〜」
白い息をはきながら、「今日も寒いですね。」が毎日の挨拶がわりとなる季節になりました。
前回のコラムで紹介させていただいた山形県も、多くの地域が厳しい豪雪地帯です。ニュースなどで真っ白になった山形県の様子見ることも増え、「旅で出逢った方々はお元気かな?」と心配な気持ちになりながらも、これまで“他人事”だった地域に、今は思い出す人や場所、お店、風景があることになんだか心が暖かくなる今日この頃です。
さて、そんな寒さの中でも食いしん坊アンテナは休む事を知りません!なんだかワクワク、美味しいにおいに誘われて、今回は千葉県山武市蓮沼にある「虹のいえ」さんに行ってきました!
「若葉ちゃんは、いったいどこで農家さんと知り合うの?」
このコラムを担当させていただくようになってから、多くの方に聞かれる質問です。東京のような都会にいながら農家さんと知り合うことは、一見難しいように思われますが、実はいたって簡単。ずばり、アンテナを張る事です!
「なになに?」「気になる!」と思ったことには、躊躇せず向かって行くこと。それだけです!会いたい人には会ってみる、行きたい場所には行ってみる、そして…食べたいものは食べてみる!今回の出逢いもそんなことから始まりました。
―虹のいえは、“夢”からできたプロジェクト・ハウスです―
虹のいえのホームページを開くと一番に、こんな説明が目に入りました。実は知り合いの方に、養鶏農家さんとして紹介していただいた虹のいえだったのですが…プロジェクト・ハウス?! なになに? どういうこと〜??全く、説明になっていない説明文です!
そもそも、農家さんの屋号には「◯◯農園」「◯◯農場」や「◯◯ファーム」、といった表現が使われることが一般的であるのに、「虹のいえ」って…?今回も、食いしん坊アンテナは愉快な農家さんを発見したようです!
訪問させていただいた日は、風は冷たくてもからっと晴れた、12月初旬の気持ちのいい天気でした。
私を出迎えてくれたのは、元気に走り回ったり、木の登りを楽しむ300羽の鶏さんたち。

ん…?鶏が、木登り?!
さっそく、ここが普通の養鶏場でないことは明らかです!家先で作業をしていた虹のいえを営む岡さん夫婦に、さっそく鶏たちのいる広場を案内していただきました。

ここでまた、ん…広場?!
養鶏と言うと、「鶏小屋」のなかで鶏を飼うのが一般的ですが、虹のいえの鶏たちがいるのは、“広場”でした。もちろん外に逃げ出さないよう敷地内は柵で囲われていますが、小屋のように上が屋根で塞がれる事も無く、網を張る事で、人間が入っても広々と感じられる気持ちのよい“広場”です。

現在虹のいえには300羽ほど(ただしひなは別の場所)の鶏がいることを聞いて、私は信じられない想いでした。広場はとても敷地が広く、鶏たちは密集する事無く自由に走り回っているのです。それほどの数の鶏がいるようには見えませんでした。広場の中には、鶏たちが遊べる木も生えています。自然に近い環境で過ごす虹のいえの鶏たちにとって、木登りはお気に入りの遊びのようです。
虹のいえの鶏広場に入って驚いたことは、その広さや快適さだけではありません。入った瞬間に感じた驚き…それは、匂いです!
小学校にあった飼育小屋、お手伝いをした養鶏場、私がこれまでに経験してきた鶏のいる場所というのは、どこも独特な匂いがつきものでした。しかし、虹のいえは全くその匂いがしないのです。むしろ、草や木、土などの自然の緑豊かな香りに包まれています。鶏に囲まれて深呼吸がしたくなるなんて、初めてです!
そしてよく見ると、鶏たちの美しいこと。どの鶏も、まるで毎日お風呂に入っているかのようにつやつや、ふわふわとした羽でした!

独特な匂いもせず、見事に美しい羽をまとった虹のいえの鶏たち・・・いったいその美の秘訣はどこにあるのでしょう?
虹のいえについて岡さん夫婦が口をそろえておっしゃったのは、鶏にストレスを与えない飼育の工夫です。
お食事中にちょっと失礼!

美味しそうに鶏たちがつついているのは、特別配合の有機飼料。化学的なものを一切使わない、虹のいえ特別ブレンドのオーガニック飼料です。そして虹のいえの鶏さんたちの大好物はまだまだ他にも…蓮沼産のお米、季節の自家野菜にハーブ!人間の私から見ても、とっても豊かな食生活ですね!
さらにその足下をよ〜く見てみると、鶏たちが駆け回るのは、水分も含んだふかふか・さらさらの土!昨年5月に岡さん夫婦が養鶏をはじめるまで、ここは様々な木々が生い茂る雑木林だったそうです。もともとの豊かな自然環境によって育まれた土壌は、岡さん夫婦によってさらに工夫を加え改良されることで、養鶏場独特の匂いを押さえる清潔な環境を作り出しています。
鶏広場を見学させていただいた後、鶏広場の隣に建つ岡さん宅でゆっくりお話をうかがうことになりました。「これ、よかったら…!」と、岡さん夫婦の奥さん・美佐恵さんがキッチンから出してくださったのは・・・

暖かい紅茶と、虹のいえの卵「にじいろたまご」で作ったシフォンケーキ!虹のいえのシフォンケーキ“ふんわり雲のケーキ”は、電話やメールで注文を受けた分だけ美佐恵さんが作り販売する、知る人ぞ知る蓮沼の人気スイーツなのです!
雲をイメージして作られたシフォンケーキは、口に入れたとたんに、にじいろたまごのほんのり優しい甘みが口いっぱいに広がります。なるほど、手でちぎって食べるのが“虹のいえ流”の食べ方というのもうなずけます。ふんわりしっとり、フォークでもつぶれてしまうほどの柔らかさに、なんとも幸せな気分でした。
農家として養鶏を営むこと以外の岡さん夫婦のチャレンジは、シフォンケーキ作りだけではありません。鶏広場の奥に広がる敷地では、ソーラーパネルの工事が行われていました。

頭上にソーラーパネルを設置することで、ソーラー発電と野菜づくりを同じ敷地で行うという、ユニークな発想に驚きです。その他にも、野菜・たまご・お米…といった虹のいえで生まれた自然の恵みをもっと多くの人に楽しんでもらいたいと、カフェや直売所のオープンも計画中。昨年5月にはじまったばかりの虹のいえは、今現在もむくむくと成長中であることが、私を含め訪れる人の心を楽しませてくれます。
「二人でいつも言っているのは、“自分たちが何をやりたいか”ということ。」
お話の中で岡さん夫婦が力強く話していたことは、そっくりそのまま“プロジェクト・ハウス”というかたちで現れていました。岡さん夫婦にとって、自分たちが暮らしたい環境を自分たちでつくること、そのものが生業でもあります。農業もソーラー発電も、カフェや直売所も、そのすべてがそのためのプロジェクトであり、これから育んでゆく“夢のたまご”なのです。岡さん家族や虹のいえに集まるたくさんの人々、一人一人が豊かな暮らしのために育む “夢のたまご”たちの成長、私もこっそりその一員になれたらいいな…と食いしん坊は企んでいるのでした!

《取材協力》
はすぬま美野菜カフェ&ファーム「虹のいえ」
千葉県山武市蓮沼ロ−3594−5
http://nijino-ie.com
鈴木和子
鈴木昌子
《筆者プロフィール》
諸岡若葉 (もろおか わかば) 1993年生、宮崎県出身
お茶の水女子大学生活科学部人間生活学科生活文化学講座3年
豊かな自然や地域の人々の輪の中で、子供たちがのびのびと育つことを重視した中高一貫校への入学をきっかけに、田舎での暮らしに興味を持つ。さらに東京での大学生活も経験することで、田舎・都会に関係なく自分らしく暮らすことの気持ちよさと大切さに気づき、自分や周りにいる人々の自分らしい「暮らし」の探求と実践のきっかけとなる場づくりとして、2013年5月に2013年5月に「おすそわけ工房kotocoto*」を立ち上げる。を立ち上げる。各人が仕事や子育てなど様々な理由を言い訳に暮らしを疎かにしがちな現代において、ゆっくりとていねいに、暮らしのひとつひとつに想いをもって生きることに魅力を感じている。特に「食」に関して、農業という食のゲンテンから豊かな食卓を思い描く。(「彩才兼備」インタビューはこちら)
《近況報告》
どうしてもこの写真が載せたくて…!

週末に畑や田んぼ、農家さんのもとに行く機会の多い私は、行く先々で生きものたちに癒されます。そんな私が子どもの頃、将来自分の家を持ったら飼ってみたいと思っていたのは、1m以上にもなる巨大陸ガメ“ゾウガメ”!のっそり歩く姿が、なんとも言えず好きなのです。
そのことを両親に言ったところ、「まずはゾウガメを育てられる、大きなお家に住むお金持ちにならんとね!」と、ごもっともな指摘をされ、子どもながらに現実って厳しいなと少しがっかりしたのを今でも覚えています。